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「もう着てみましたか」
そして、食卓に突き立てたまゝになつている短刀を、火箸か何かつかむやうな、無造作な素速い手つきで抜きとると、鞘におさめて腹帯の内側へ入れながら、
間もなく二人は来た時と同じに、つれ立つて、いくらか日蔭のできた路を、どういふものかどちらも自転車に乗らうとはしないで、押しながら歩いていた。
と、思はず房一の微笑に釣りこまれて、練吉は気がるな笑顔になつた。いつのまにか、かた苦しい「わたし」から「僕」といふ云ひ方になつたのも気づかないで。
房一はふと自分に返つて訊いた。
今泉は面喰つてこれも徳次の眼の中をのぞきこんだ。二人の間には恐しく判りにくいものが突然はさまつたやうに思はれた。
病人は眼を開けて、しばらくこの息子とはちがふ医者を眺めた。軽い不審と失望の色が浮かんだやうに見えたが、すぐに閉ぢて、かすかにうなづいた。
「水神淵を知つとんなさるだらう」
房一は男の前膝部をたゝいた。脚気でもない。心臓は弱つていた。単音でなく、微弱な重音があるので弁膜症の気味があるとも診られた。呼吸器に異状はなかつた。一応の診察を終ると、房一は患者の顔から、胴体にかけて、熱心に眺めた。皮膚は弛緩して、生気がなかつた。だが、その極端な貧血と一般的な衰弱とは典型的な寄生虫の症状らしいことにさつきから気づいていた。
と、盛子は大げさに滑稽な顔をしてみせた。
「それぢや、向ふの座敷へ行つて少し休みませうか」
「をかしな男だな」
「あ、さうだ。お茶、お茶。おい、お茶を出してくれ」